福島地方裁判所 昭和23年(行)46号 判決
原告 伊藤瑞木
被告 福島県農地委員会・小手村農地委員会
一、主 文
被告小手村農地委員会が別紙物件目録記載の(二)(三)(四)の土地に対し公告した未墾地買收計画を取り消す。
被告福島縣農地委員会が前項の買收計画に対する原告の訴願につき昭和二十三年七月二十三日にした裁決を取り消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は相消す。
二、請求の趣旨
被告福島縣農地委員会が別紙物件目録記載上の土地に対する訴願人原告相手方小手村農地委員会間の訴願に対し昭和二十三年七月二十三日になした裁決を取り消す。被告小手村農地委員会が別紙物件目録記載の土地につき定めた未墾地買收計画を取り消す。
三、事 実
原告はその請求の原因として、被告小手村農地委員会(以下村農委と略称する。)は、昭和二十三年五月二十日原告所有の別紙物件目録記載の土地につき、未墾地買收計画を公告したので、原告は、同年六月六日異議の申立をしたところ、却下されたので、六月二十一日被告福島縣農地委員会(以下縣農委と略称する。)に訴願の申立をしたが、七月二十三日附裁決書で棄却され、右裁決書は、八月十一日原告に送達された。
右土地中一部は、開墾地であるが、一部は、原告が薪炭林又は自作農創設特別措置法にいわゆる採草地として使用中のもので、開墾不適地である。
本件(二)乃至(四)の山林計二反一畝五歩は、從前から原告方の採草地であり、一部は、薪炭林となつており、(一)の山林も同様從前から原告方の採草地兼薪炭林として使用中のものである。原告は、数年前(四)の山林の山脚部約一反歩(係爭地外)を開墾し、該部分は、目下畑として使用しているが、更に、昭和二十二年八月二十八日、食糧増産の目的で、本件(一)乃至(四)の山林につき、村農委に増反起墾届を提出して開墾に着手し、(二)乃至(四)の山林のうち、約三畝歩を開墾して農作物を植えつけ、(一)の山林のうち約一畝歩を開墾したが、本件買收計画が樹立されたので開墾を中止した。
以上のとおり、原告は、本件買收計画樹立前に村農委に開墾届を提出して、開墾に着手したのであるから、本件山林中、開墾適地は、これを原告に開墾せしめるべきものである。
原告が、開墾届を提出した以外の部分は、次の理由で、開墾不適地である。
一、(一)の山林は、土質は浅い粘土質で、その下部は全部砂利であるから、干ばつの際は、作物は生育しない。これを開墾するときは、附近低地の畑に砂が流出して被害を生ずる危險がある。
二、(二)乃至(四)の山林は、その過半面積が三十四度以上の急傾斜地であり、土質は、岩石を含んだ粘土砂利質で不良であり、北西向で日当りが惡く、これを開墾するときは、治水上附近農地に土砂崩壞の危險を生ずるおそれがある。
原告は、田五反五畝歩、畑一町歩を自作し、山林一町五反歩余(うち(イ)本件(二)乃至(四)のうち二反歩は採草地、(ロ)本件(一)の三反六畝十六歩は採草地及薪炭兼用地、(ハ)その他の九反歩余は薪炭林。)を所有する專業農家であるから、本件開墾不適地は、採草地及び薪炭林として残存しておかないと、営農上重大な支障をきたすのである。
以上の現由で、本件買收計画は違法であり、原告の訴願を棄却した裁決もまた違法であるから、その取消を求めるため、本訴を提起したのであると述べた。(立証省略)
被告両名は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、原告主張の事実中、村農委が、昭和二十三年五月二十日原告所有の本件土地につき未墾地買收計画を公告したこと、これに対し原告が、六月六日村農委に異議の申立をしたが、却下されたので、更に六月二十一日縣農委に訴願の申立をしたところ、これまた七月二十三日附裁決書で棄却され、右裁決書が、八月十一日原告に送達されたこと、原告が、数年前(四)の山林の山脚部約一反歩を開墾し、目下畑としてこれを使用していること、原告が、昭和二十二年八月二十八日村農委に開墾届を提出して、開墾に着手し、(二)乃至(四)のうち約三畝歩、(一)のうち約一畝歩を開墾したこと、(二)乃至(四)の山林が、北西向で、原告主張のような傾斜であること及び原告が、田五反五畝歩、畑一町歩を自作し、山林一町五反歩余を所有していることは、これを認めるが、原告が、(一)の山林を採草地及び薪炭林としていたことは不知、その余の事実は、これを否認する。本件土地は、全部開墾地である。原告が、開墾したという約三畝歩は、原告が、昭和二十三年四月中旬一くわ起し程度に荒起ししたもので畑というべきものではなく、作物も植えず、現在では雜草のなかにきくいも十一株が交つているだけである。約一畝歩は、現況は、雜草雜木繁茂して、畑ではない。本件山林は、いわゆる山林であつて、採草地ではない。(一)の山林は、峯の方には松が、その他には雜木が生立している。昭和二十三年四月中小手村が、採草地所有者に申告届出をさせたが、原告は、採草地の申告をしていない点からみても、本件山林が、採草地でないことが明かである。(二)乃至(四)の山林の急傾斜の部分は、原告主張のようにその過半面積ではなく、一部分だけである。仮に過半面積に及んでいるとしても、段畑に開墾すれば、一向差支ないのである。從つて、本件買收計画及び裁決には、何等の違法もないから、原告の本訴は失当であると述べた。(立証省略)
四、理 由
被告村農委が、昭和二十二年五月二十日原告所有の本件土地につき、未墾地買收計画を公告したので、原告は、六月六日村農委に異議の申立をしたが、却下されたから、更に同月二十一日被告縣農委に訴願をしたが、これまた七月二十三日附裁決書で棄却され、右裁決書の謄本が、八月十一日原告に送付されたことは、当事者間に爭がない。
以下爭点について、逐次判断する。
一、未墾地買收計画の正否について。
原告は、本件土地は、自作農創設特別措置法にいわゆる採草地であり、また(一)のうち約一畝歩は、原告が開墾した((二)乃至(四)の開墾地約三畝歩の点はしばらくおく。)と主張して、もつて、本件土地の一部は、牧野であり、一部は、農地であると主張するもののようであるが、乙第二号証に原告本人尋問の結果を綜合すれば、原告は、本件土地につき、牧野調査規則に定める申告をしていないことがうかがはれるのみではなく、檢証の結果に徴するときは、本地山林は、一面に松、栗、檜、くぬぎなどが生立し、その間に雜草が生えている程度で、事実上も山林であつて、採草地とは認めがたい現況にあること及び右約一畝歩は、一くわ起しに荒起しされた形跡をとどめるのみで、現況は雜草が茂つていて、到底畑と認められないことが明かである。從つて、本件土地を未墾地として樹立公告した本件買收計画は、違法ではない。
二、本件土地が開墾適地であるかどうかの点について。
乙第一、第三号証に檢証の結果を総合すると、(一)の土地は、その南側で接続している作場道より約一丈内外高くなつているので、これを開墾するときは、土砂崩壞の危險がないとは断じ得ないが、ほかにはこれを開墾不適地と認めるべき理由がなく、しかも土砂崩壞の防止対策を講ずることは、経済的に可能であることが認められるから、(一)の土地は開墾適地といわなければならない。
(二)乃至(四)の土地は、乙第三号証に証人矢館清春の証言、檢証及び原告本人尋問の各結果を総合すると、そのうち(四)の西北隅に上下二段にわたつて、原告が合計約六十八坪を開墾し、これにきく芋や馬鈴薯を植栽したが、他の大部分は、十七度乃至四十四度の急傾斜地になつていて、開墾不適地であり、わずかに(四)の山頂部約三畝二十七歩が、平坦地で開墾適地であることが認められる。しかし右三畝二十七歩は、その部分だけを切り離してみれば適地であるが、檢証の結果によれば、山頂部に位する一小部分で、これを開墾するときは、その東西及び北の三方が原告所有の山林にかこまれて袋地に近いものとなることが明かであるから、それに通ずる通路のことや、またその下部は、直ちに急傾斜になつているので、開墾後畑を土砂の流失から守るために、相当の施設が必要であろうと思われることなどを考えると、該部分も、増反開墾地としては不適地であるといわなければならない。
三、適地は原告に開墾せしめるべきであるとの点について。
未墾地の場合は、農地や牧野の場合と異り、買收してよい未墾地、買收してはならない未墾地を法定していない。
從つて、自作農を創設し、又は土地の農業上の利用を増進するため必要があるときは、総ての開墾適地を買收することができるように考えられないでもない。しかし未墾地買收の目的は、食糧の増産と自作農の創設にある。食糧増産の面からすれば、それが精農である限り、何人が開墾しても同じことであるから、自己開墾を希望する所有者の意思を無視してまで、これを買收する必要はない。他面、自作農創設の面からいえば、所有者のほか、第三者も開墾を希望するときは、その双方に存する営農上の諸般の事情を比較考量した上、自作農創設特別措置法の意図する目的に考え、果してそのいずれに開墾させるのが相当であるかどうかによつて、買收計画の適否を決するのが妥当であつて、所有者が開墾を希望するという一事だけで買收を否とすべきではあるまい。たとえば当該地方において、相当の耕地を耕作し、未墾地を所有していて未墾地の一部を買收されても、さほどの痛ようを感じないものか自己開墾をたてにとつて、零細農のためにする買收を拒絶することは許されるべきでないと同時に、割合に、耕地も少なく、小面積の未墾地しか所有していない者から、未墾地を買收して、その生活状態を著しくわるくすることも許されるべきではない。本件では、(一)の土地は、開墾適地であり、乙第一号証によれば、原告は既に、昭和二十二年八月二十八日そのうち一反歩につき、村農委に開墾届を提出していることが明かであるが、原告が、田五反五畝歩、畑一町歩を耕作し、山林一町五反歩余(本件係爭山林を含む。)を所有していることは、当事者間に爭のない事実であり、甲第一号証、乙第三号証に被告村農委代表者本人尋問の結果を総合すると、開墾希望者九名は、畑は、一反歩乃至三、四反歩、多くても七反歩位を耕作するのみで、開墾に適する山林を所有しておらず、家族が多くて、その大部分は生活に困つているので、村農委は同人等の希望を容れて、共同開墾をさせるために、本件買收計画を樹立公告したものであることが認められる。これらの事情からすれば、右適地は、これを原告に開墾せしめるよりも、右九名の者に開墾せしめて、健全な自作農の創設に幾分でも資するようにする方が、法の目的に合致するものと思料されるから、本件適地の買收計画は違法ではない。
以上に認定したとおり、(一)の土地に関する買收計画は、適法であり、(二)乃至(四)の土地に関する買收計画は、違法であるから、原告の本訴請求中(二)乃至(四)の土地に関する部分は、全部これを認容し、(一)の土地に関する部分は、全部理由がないから、これを棄却する。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十二條を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 斎藤規矩三 黒江清 福間佐昭)
(目録省略)